前回の記事で京都ラーメンの最大の特徴はネギとチャーシューと書いた。
それ以外の京都ラーメンの特徴としては、いくつかの系統に分かれていて、新福菜館や第一旭のようなシンプルで古風なしょうゆラーメンに始まり、ますたにのような背脂系、とんこつしょうゆ系、鶏がら白濁系などが人気だ。これは主にスープの系統だけど、京都ラーメンとしてもう一つ忘れてはならない要素がある。それはスープでも、麺でも、具でもない。じゃあ何だというと、なんとこれが唐揚げなのである。
唐揚げがメニューの売りになっている系統。なんでか、京都のラーメン屋では唐揚げを前面に押し出している店がいくつかある。ラーメン屋が学生街に多いというのも影響しているのだろうか。あの天下一品も、よく見ればメニューに唐揚げがあって、唐揚げセットというのも可能だ。唐揚げセットを掲げている店に入ると「京都のラーメン屋だなー」と感じてしまう。
『ラーメン藤 五条店』は、そんな唐揚げ系に属するお店の一つだ。ランチタイムに店に入ると、唐揚げセットがほんのちょっと安くなる。ラーメンに唐揚げとライスが付いて900円というところ。通常は950円なので50円安い。そんなものだ。
最初に説明をしておくと、だいたいにおいて、京都のラーメン屋の唐揚げは別に安くはない。ラーメンが600円か700円くらいするとして、唐揚げだって400円500円はする。両方食べると千円くらいは優に超えるのが普通だ。たまに安い店もあるし、セットにすると多少は安くなるということもあるけど、だいたい千円あたりに設定されているのが多い。それのどこが学生向けなんだと思うけど、学生の財布に優しいというより、少々高くついても唐揚げにならお金を払ってしまうのが学生というものなのかもしれん。
青ネギたっぷり。スープは鶏がらしょうゆというところだろうか。脂が層になっているが、味自体はキツくない。チャーシューは薄め。麺は細い。京都ラーメンの基本をすべて守った安心感あるラーメン。といっても、ネギの代りに背脂でも浮いていたら、尾道ラーメンとしても通用しそうだ。京都ラーメンはネギと薄いチャーシューの存在あってこそ、という自説がますます正しいように思えてきた。
セットとしてついてくる唐揚げとライス。ラーメンライスに唐揚げという、ジャンク極まりない組み合わせ。薄味とか雅とかいわれる京都の食文化のもう一つの顔が、この下品なまでのジャンクさである。なにせ、かの餃子の王将が生み出された風土なのだ。
京都ラーメン屋の唐揚げは、でかければでかい程人気が出るのだろうか。一乗寺の某人気店のものなどケンタッキーかと思うくらいのサイズだった。この『ラーメン藤 五条店』の唐揚げもそこまでとはいかずとも、なかなかの大ぶりだ。熱々の衣を食い破ると、これまた熱い肉汁が噴きでてくるので、あわてて口に放り込むとたいへんなことになる。硬くて尖った衣が熱々になって口の中で大暴れする。食べられる事を頑強に抵抗しているような唐揚げだ。しかも熱いと味も何もよくわからない。
そんな熱々の唐揚げと、熱々のラーメン、熱々のライスと一緒に食べるのだから忙しい事この上もない。どっちを向いても熱い。なんでこんな組み合わせが人気なのか首をひねりたくなる。けれどメニューを見た時は不思議なときめきがある。
ラーメンが冷めると美味しくないので、まずはラーメンライスで片付けていって、唐揚げがほどよく冷める頃合いを見計らって、こんどは唐揚げ定食としていただく。あるいは、最初にラーメンの麺を食べていき、スープ付き唐揚げ定食にしてもよい。なかには、唐揚げラーメンにしてしまう豪の者もいるかもしれない。頑強な衣がスープで溶けて食べやすくなる。僕はふにゃふにゃの唐揚げは嫌だからあんまりオススメするところではないけど。とにかく、ラーメン屋の唐揚げというのは、戦略性をもって挑まなければ額面通りの楽しさはない。まるで一目惚れした相手が、付き合ってみると意外にやっかいな性格をしていたというような。
『ラーメン藤 五条店』の事を思い出す時はいつも唐揚げの事を考えてしまう。かなり美味しいラーメンを出していたとしても「そろそろあそこのラーメンを食べてもよいかな」というより、「そろそろあそこの唐揚げを食べてもよいかな」となってしまっているのが唐揚げ系ラーメン屋の恐ろしいところ。どちらが主体か、もはやよくわからない。強烈な個性をもった妻のいる友人宅を訪ねる時のようなものか。それはそれで面白いのだけど。
ちなみに、他のラーメン藤の店舗には、唐揚げがメニューに無かったりする。あくまで『ラーメン藤 五条店』が唐揚げ系の京都ラーメンに属する店といういうことだ。まあ、こんな分類をしているのは僕だけかもしれんけど。