ひるがの高原サービスエリア。日本一標高の高い場所にあるサービスエリアらしい。岐阜県の飛騨高山という所に行くというのでホイホイとさそわれてきて、気がつけば自動車でこんなところに連れられてきた。つまりここは岐阜県なのである。後ろ姿が見えるのが僕を誘い出したオッさんである。岐阜県といえば具体的にはJR岐阜駅の周辺しか知らないので楽しみといえば楽しみだけど、なにしろ目的がよくわからないので何もイメージが出来ない。
これが大日ヶ岳という山か。冬にはスキー場としても有名だそうだ。美濃、飛騨、越前の3国の国境にあったので「三国山」とも呼ばれていたが今の行政区分では岐阜県にあるというだけの山だ。
サービスエリアの横はなかなか広い公園になっていてのんびりと過ごせる。さすが日本一の標高を誇るサービスエリアである。公園のほうまで行くのは面倒なので、オープンテラスになっているところに腰掛けて軽く食事をとっていくことにした。
オッさんは何やらパンを食べていた。僕は朝食の時間帯はあまり食欲がないので飲み物だけで済ませようと思ったが、おにぎりが地元の米のやつらしくてやけに美味しそうだったので買ってしまった。とくに紫蘇の入ったおにぎりには弱い。もうひとつは味噌を塗りたくったおにぎり。このあたりは味噌焼きが有名ということなので、そういった何かなのだろう。食べてみると甘かった。悪くはないが、やはり紫蘇のおにぎりが最高だった。
食事と休憩を済ませて再び車でうねうねとした山道を走る。標高の高いところを走っているだけあって、谷底を流れる川などを眺めたりして絶景には事欠かない。飛騨高山を目指しているのだが、最初の目的地としては白川郷に行くらしい。白川郷は観光地として有名ということで名前しか知らない。そういうわけで行ったこともなければ行こうという動機も生まれなかった。誰かに連れられて来るというのは面白いものだ。
そろそろ白川郷に近いというところの山道で、只者じゃなさそうな吊り橋を発見した。気になるので寄り道していくことにする。車を止めるスペースはあるが、他に案内のようなものは見当たらない。特に由来のある場所ではなさそうだが、なぜか化石が展示してありその説明だけがあった。
これがその化石だ。吊り橋の手前に化石を展示してどういうことだろうか。地政学的にそれなりの意義があるようだけど僕らにはさっぱり価値がわからない。化石の前にお供えのようなものがある。
アニメのような絵やノートが見える。これは人気ゲームの『ひぐらしのなく頃に』の絵か。そういえば思い出したが、白川郷の写真が『ひぐらしのなく頃に』の背景画像に使われていたということで、このあたりはこのゲームの舞台になった聖地としてオタに知られたところでもある。つまりこれも聖地めぐりの一環なのか。それにしてもこんな何もないような場所にまで訪れているとは恐れ入る。山道の途中で僕らの他には人っ子一人いないようなところだ。
問題の吊り橋にいってみる。せっかくだから渡ってみたい。
思ったよりも立派な吊り橋だ。なのに観光スポットでも何でもないのか。
ものすごく高いところを渡してある吊り橋だった。とんでもなく高い。吊り橋なので揺れる。かなり揺れる。吊り橋の幅は大人一人が余裕をもって渡れるくらいのもの。高いところに強いほうではないので恐怖感をおぼえる。吊り橋を渡るときの胸の高なりというのは恋したときの胸の高なりと同じなので、一緒に吊り橋を渡った二人は勘違いして恋愛感情が芽生えることがあるという。世に言う「吊り橋効果」というやつだが、一緒に渡ったオッさんと恋愛感情が生まれてしまいそうだ。それくらいあってもおかしくないような迫力ある吊り橋だ。
眺めの良い風景にしか見えない写真だが、なにしろ細いワイヤーしかないものだから身体がずり落ちそうな錯覚に常にとらわれる。吊り橋が大きく傾いたらしがみついている自信はない。落ちたら間違いなく死んでしまうだろう。そういう高さだ。
あまり下を意識して渡っていると足がすくんで動けなくなって格好が悪い。なるべく前をみて渡っていきたい。しかし渡りきった先は単なる山道。そのまま同じ吊り橋を引き返してこないといけないので頭がいたい。
ジェットコースターなどにお金を払って乗り込む人がいるが、僕はこんな吊り橋で十分にハラハラドキドキしてしまう。といってもこのレベルの吊り橋というのは日本にそうたくさんは無いだろう。思いがけずちょっとした恐怖体験をしてしまった。
家にかえって検索してみたら、『ひぐらしのなく頃に』のストーリーで主人公が落下するシーンの吊り橋がここだそうだ。それでノートやイラストなどが設置してあったのか。それにしたって飛び降りてどうにかなるような高さではなかった。
予定にはなかったがちょっと得をした気持ちで白川郷に入る。
つづく。