前回の記事で今出川北白川の交差点近くの『ますたに』2号店の話をすこししたが、白川通りを渡ってほぼ向かいにあるお店の話もしたいと思う。こちらはラーメン屋ではなくて
アイスキャンデー屋である。
今どきアイスキャンデー屋というのは全国でも珍しい。僕も今まで生きてきても、その種の店を利用した記憶はそんなに多くは無い。アイスクリームやかき氷のお店だったら珍しくもなんともない。アイスキャンデーを扱っているアイスクリーム屋、あるいはお菓子屋その他の店もいくらでもある。それなのにアイスキャンデー屋を探せといわれるといきなり困った感じになる。
大阪の難波には『北極のアイスキャンデー』というのがあって一種の名物になっているが、それと、あとはものすごく遠くに飛ぶのだけど、九州の佐賀県の鳥栖で北極と似たようなお店に入ったことがある。それ以外でぱっと思いつくのは京都のここにある
『銀閣寺キャンデー店』だけだ。だから紹介するに足るお店だと思っている。
銀閣寺キャンデー店の見た目はこんな調子だ。子供の頃にはこんな店によく行った記憶があるけど、最近はほとんど見かけなくなったセンスだ。あの頃はアイスキャンデー店もあちこちにあったのだろうか。
かつてはいっぱい存在したうちの、うっかり生き残ってしまった恐竜のような店がここなのかもしれない。それだけに今でも人気がある。夏の季節になると店の前のベンチで、アイスキャンデーとかソフトクリームを食べて涼んで居る人がかならず居る。店内で食べるなんてことは出来ないお店なので、ベンチで食べていくか、道端で食べるよりしょうがない。
アイスキャンデーにもパインとかあずきとかみかんとか色々種類があってえらべる。どれも100円前後のもの。ソフトクリームも扱っている。
あと珍しいのがパインジュースが50円で飲めること。大だと80円。煩わしいから80円の大サイズだけで良いじゃないかとか不埒なことを考えてしまうのは、今どきの感覚に慣れ過ぎたせいなのか、大人になってしまっているからなのか。ここはひとつ子供心を取り戻すために、50円のパインジュースも飲んでみることにした。
アイスキャンデーはソーダ味を選択する。涼しげな色がいかにもアイスキャンデーという感じがするので好きだ。しかも一番安かったと思う。70円だったか。あやふやだ。
50円のパインジュースは小さいグラスで渡される。今どきはあまり無いコンパクトサイズのグラスだ。この店で受け取るものは何もかも古くさくて良い。現代は人も物もなんでも大きくなってしまったようだ。ちょうど先客のおばあちゃんたちがソフトクリームを食べ終えたところだったのでベンチを代わってもらった。ありがたい。
パインジュースは予想通りのストレートな甘さ。複雑な味付けはほとんど何もないようだ。シロップ漬けパインの缶の汁を飲んでいるみたいなものである。とするとちゃんと果汁が入っているのかと考えてみたが無果汁ぽくもある。この辺はどうもよくわからない。そういえばパイン缶も冷静に味わうと嘘臭い味かもしれない。パインジュースを飲みながらアイスキャンデーを食べていると、何がなんだか訳がわからなくなるくらい口の中が甘くなった。同時に頼んだ自分が悪いのだけど。
このパインジュースには根強いファンがいるようだ。というのもプラスチックの水筒みたいな珍しいボトルがあって、10杯ぶんくらいのまとめ売りをしているのだ。そっちも大と小のサイズがある。これを大量に家に持ち帰って飲みたいというシチュエーションがうまく想像できないけれど、僕が見ている前でも持ち帰っている人がいた。きっと他のジュースでは代えが効かないものなのだ。
アイスキャンデーといえば斜めに刺さったお箸が特徴だろう。キャンデーを凍らせる時に、容器にお箸を寝かすからどうしてもこうなってしまうのか。現代の大手メーカーの工場で大量生産されているものとの違いはここである。
きっとまっすぐ刺そうと思えば技術的に出来ない事もないのだろうけど(一般的に流通しているアイスキャンデーはちゃんとそうなっているし)、あえて斜めになっているところに、なにかしらの製法を守るための強い意思を感じる。北極とか、鳥栖のアイスキャンデーも斜めだったし。だから昔ながらの製法のアイスキャンデーというのは、斜めにお箸が刺さったもののことを指すのだろう。
今のアイスキャンデーの方が、技術も、材料も、非常に洗練されたものに違いない。しかしその反面、シンプルに氷をガリガリかじるようなド直球の味わいを永遠に失ってしまった。だから我々はたまにはこうして、斜めにお箸が刺さったアイスキャンデーを食べに来る必要がある。
パインジュースとアイスキャンデーを交互にいただいてすっかり身体がひんやりしてしまった。支払ったお金は120円とか130円とかだった筈だ。