大阪から電車を乗り継いで浜名湖までやってきた僕とアニワギ博士。
大阪から東京までの東海道本線を走っていて、車窓の景色として目を引くポイントといえばほとんどが静岡だ。静岡といえば真っ先に富士山が思いつくけれど、浜名湖のまっただ中に浮かぶように存在するJR弁天島駅の景観もなかなかどうして凄いのである。
そんな弁天島駅のひとつ手前が新居町駅だ。「あらいまち」と読む。住所的には「あらいちょう」と呼んだらしいが、合併でその住所は無くなってしまったらしい。競艇場の取材という名目でもなければ降りなかったかもしれない駅なので少し嬉しい。こちらもほとんど浜名湖の中にあるような駅だ。
駅に降り立つとジリジリとした暑さが全身を包んでくる。目指す浜名湖競艇場は線路からも見えている。駅からほとんど直結でたどり着けると聞いていたので早速向かう。
ホームの通路を歩いて窓から覗いてみると、こういう通路がずっと伸びて、浜名湖を横断してボート場まで行っているようだ。雨の日でも濡れずにボート場にたどり着けるというのは本当のようだ。このように日差しの強い日でも助かる。
奥に見える城のような巨大建造物が浜名湖競艇場である。
駅の改札には整理用の柵が設けられている。この日は平日の午前中でたいして人なんかいないので全く使われていないが、土日の重要レースになると人が押し寄せてくることもあるのだろうか。アニワギ博士は「あるんちゃいますか」と言っていた。お互い浜名湖競艇場の事情なんか何もしらないのだ。
窓から見えた通路は、実際にきてみると、橋の歩道部分に屋根を設けただけの簡易なものだった。日陰にはなっているので構わないのだが。
この橋は浜名湖の中に仕切られたボート場のための人工島というか埋立地というか、何と呼ぶのかわからないけど、そうしたエリアに渡るためのものだ。たいした距離があるわけではない。
橋を渡りきったところには、いかにもな立ち飲み屋があって興味をそそられる。ギャンブル場らしい雰囲気になってきた。といっても競艇場害の店はここだけ。外から見る限り競艇場の建物はデカくて立派だけれど場外は寂しいものだ。埋立地みたいなところだから仕方がないのか。中をうかがうと客は1人だけだった。全体的に客足がまばらな上に、まだ第一レースが始まる前の時間の筈だし、そんなものなのかもしれない。それとも競艇場内で飲み食いしているのだろうか。
寄って行きたい気持ちもあったけど、レースの時間も気になったので、とりあえずは場内に入るのを優先することにした。なにせ今日はアニワギ博士と二人して、はるばる競艇場の取材にきたのだ。ビールを飲みに来たわけではないのだ。飲み始めたらレースなんかどうでも良くなってしまう。しかし後ろ髪を引かれるとはまさにこのこと。
のれんにある「出世城」というのは浜松の地酒の銘柄の名前を書いているのか、この立ち飲み屋の名前なのか、あるいは両方なのか。反対側には「かちどき」とあるので、きっとコチラが店名なのだろう。舟券を当てて帰りにここで勝鬨を上げたいものである。ちなみに出世城といえば浜松城の別名だ。
これが浜名湖競艇場の正面玄関。暑いので早く中に入ってしまいたい。
公営ギャンブル場にはそれぞれのレース場の専門の新聞が売られている。こちらでも「大濱名」と「浜名湖日競」がそれにあたるようだ。一部300円。それを高いと思うか安いと思うかすら実はよく分かってないが、ある種の人にとっては必要経費のようなものに違いない。
僕とアニワギ博士は、レース分析に頼らない投票の仕方をするので、こうした情報紙には目もくれずに通り過ぎてしまったが、300円くらいなら話のタネに買ってみても良かったかもしれない。取材と言いながらも、素っ気もなければ色気もない二人である。
ゲートに100円玉を投入して中に入れてもらう。地方ギャンブル場の入場料はだいたいこんなものだ。ぼんやりとレースを観戦するだけならばこんなに安い娯楽もない。レース観戦自体に面白味があるかどうかは知らないけれど。
外から眺めてもデカい建物だったが、内部はもちろんかなり余裕のある作り。いや、余裕がありすぎると言っても良い。ガランとしている。
がらん…。
がらん…。
ざっと回ってみたが、建物がデカいだけで、行けども行けども通路が続いているような印象。売店とか、飲食店とか、面白味のある施設はほとんどない。
外側は遊園地か何かに見紛うほどの立派さだったけど、いざ内側に入ってみると、まるで羊羹の箱の中を歩いているような寂しさを味わえる。鉄火場的なごしゃごしゃしたイメージは微塵もない。
僕は場外売り場であるボートピアくらいしか行った事がなくて、住之江競艇場なんかも入った事がないけど、競艇場というのはこんなものなのだろうか。なにしろ競艇場訪問は初めてのことで、競馬場やオートレース場とは随分と趣が違うことに戸惑ってしまった。
最初の食事はボートレース場で「ギャンブル飯」と洒落込むつもりで、朝飯なんかも特に食べずにやってきたのだけど、目論見を外してしまったのかもしれない。
少し焦り始めるが、電車で飲んだ缶ビールと、豊橋駅でアニワギ博士が買ってくれた「ちくわ」のおかげで多少の余裕があった。なければ多少不機嫌になっていたかもしれない。アニワギ博士が「揚げあん巻き」を食べていたのも大正解。いつだってソツが無い。さすが博士である。
とはいえアニワギ博士というのは、「揚げあん巻き」くらいでは足りない男でもある。ボートで勝負する前に、ちゃんと胃袋を充たせる何かを探さないといけない。とはいえ、こんな羊羹の箱の中のような建物で、何が食べれるというのか。
レース前の探索はつづく。