浜名湖競艇場にはまともな「めし」は無いのか?と不安になった僕とアニワギ博士だったが、とりあえずは何かを食べてみないと始まらない。「ええい、ままよ」と食堂のひとつに飛び込んでみる。
競艇場に2軒だけある食堂(探しまわってそれしか見てないから多分2軒だけだろう)のひとつは、高速道路のサービスエリアの食堂みたいな雰囲気だった。食券を買って、長いカウンターのそれぞれから料理を出してもらうシステムだ。もしくは古いショッピングセンターのフードコートを思い出す。いまどきのイオンとか、そういう新しいショッピングセンターからは、この手の食堂は駆逐されてしまった。
カウンター上部に掲示されているメニューをざっと眺める。
麺類と丼類は定番だけど、握り寿司なんてのもある。ちょっと意味がわからない。そして握り寿司の隣にホットコーヒーを配置するセンスが、意味のわからなさに拍車をかけているようだ。
ホッピー300円というのも謎だ。生ビールは無いけどホッピーだけがメニューにあるのはどういうことだろうか。そんな飲食店はあまり見たことがない。きょろきょろと客席を見渡して、それらしい物を飲んでいる老人を見つける。ホッピーがプラスチックのコップに入っているだけ。ホッピーのボトルらしきものは見当たらない。
僕らの知るホッピーというのは、瓶のボトルに入っていて、コップに入れてもらった焼酎を割ってちびちびと飲むビールの代用品である。ボトルでもらわない場合は、サーバーで既に酒とミックスしている生ホッピーという種類の飲み物になる。これは提供している店も限られてくる。まさか、こんな場所(失礼!)で提供しているとも思えないのだが。
浜名湖らしく鰻丼もちゃんとあったが1000円というのではお得感はまるで無い。しかも中国産のうなぎなどというアンケートを見た後ならなおさら。本当に中国産なのかどうかは知らないけれど、
アンケートの回答ではとくに否定もしていなかったのも事実。
鰻丼のところだけ、上から紙を貼って値段を訂正している。これでも安くしたのか、さらに高くしたのか。きっと高くしたに違いないのだ。うなぎが不足しているということだし。中国産でも高くなるのか。
そんな中で我々が選択したのはうどんだ。競艇場でうどんを食べるというのは何となく決めていた。『煮かけうどん』という珍しいものがあったので、さっそく食券を購入して、めんコーナーで待機する。天カスが自分で入れるようになっている。この時点で食に対する不安感は薄れて、むしろちょっとばかり「至らないうどん」であっても許そうという気持ちが強くなってくる。
天カスたっぷりのうどんは正義。
『煮かけうどん』350円である。
「煮かけ」なんてのは中々みかけないメニューだ。それもそのはず、豊橋とか、岡崎とか、限られた地方だけでよく食べられる御当地うどんなのだ。全国的な認知度は限りなく低いが、愛知県の三河地域のうどん消費量は、一説によると全国でもトップらしい。そのほとんどが、この「煮かけ」ということだ。
煮かけうどんの定義としては、まず鰹節がいっぱいのっている事。そしてネギ。その他にはかまぼこやホウレンソウや油揚げが入るようである。三河の人はこういううどんが大好きでしょっちゅう食べているらしい。
浜名湖競艇場の『煮かけうどん』は鰹節とネギ以外は少々さびしい…けど、我々350円のうどんにそこまでは期待していないので、天カスでも入れて貰えばそのへんは「かめへん、かめへん」なのである。
一口すすってみて驚いた。ダシがすばらしく濃くて美味い。鰹節からしみ出た旨味なのか。いや、そんなに早く味がしみ出るものか。もとからそれなりに濃いのだろう。大阪ではうどんに鰹節を入れたりすることは稀だけど、ちょっと濃い目のダシにのったソレは具としても中々の塩梅である。鰹節を噛みしめると濃い目のダシがじゅっと口の中に広がる。鰹節を噛むから濃いダシが出たのか、濃いダシが染み込んだから鰹節が美味くなっているのか。ひよこが先かニワトリが先かのような問答を思い出すうどんだ。鰹節の香ばしさも十分に楽しめる。うどんも良い具合にくたくた。
そういえば、名古屋で食べる「きしめん」にも鰹節が乗っていたのを思い出した。あれもそういえば、「煮かけうどん」の方法論だった。
結論としては浜名湖競艇場の食堂の煮かけうどんは美味い。おかげでちょっと「煮かけ」というものが好きなった。「煮かけうどん」が東海の一部地域だけの支持にとどまって、全国でほとんど知られてないのはアピールが難しいのもあるのだろう。いくら「煮かけ!煮かけ!」と連呼したって、他の地域の人にしたら「しょせん鰹節をかけただけのかけうどん」と見られてしまうに違いない。何か反論したいが、実際その通りなのだ。これは困った。
とはいえ、これからは、家でうどんを作る時には、鰹節の投入を考慮してしまう自分がいるだろう。今さらだけど、うどんに鰹節は悪くない!
アニワギ博士はなぜか「煮かけそば」の方を注文していた。こちらもやはりダシの濃さを褒めていた。
アニワギ博士は土手焼き100円も注文。値段も手頃でよかった。
大阪の土手焼きといえば牛のスジ肉を味噌で甘辛く煮込んだものだけど、愛知県のそれは豚のホルモンを甘くした八丁味噌で煮込んだもの。土手煮と呼ばれることも多い。このエリアだと静岡県といっても、地理的に愛知文化圏に入るはずで当然出されたのも豚のホルモンのやつ。アニワギ博士は食べたことが無かったようだ。僕も一切れもらうが、肉がガチガチになるくらい煮込んであり、とんでもなく濃くて甘い。
…こんなものだ。
他にもイカ五平150円なんてのもある。五平餅のイカ版なのだろうか。気になるが後で時間があれば食べてみたい。前述のホッピーも気になる。しかしレースもあるので空いた時間があればチェックすることにする。貝汁150円ていうのもひっかかる。アニワギ博士は「何の貝なのか気になりますねえ」と言っていた。
アンケートではボロクソだったけど、確かにものすごく凝っているわけでもないけど、競艇グルメだ何だとときめく雰囲気もないけれど、それなりに御当地成分が含まれていて楽しめたというのが浜名湖競艇場の食堂の感想。
静岡県の名物ですらない『煮かけうどん』だけど、僕らのように遠来からやってきた人間とっては嬉しいメニューだろう。
まあ、もっとも、浜名湖競艇場にやってくる主な客層は、愛知県とか静岡県の人だろうから、そういったものは平凡すぎて箸にも棒にもかからないに違いないが…。
それはそれとして、僕とアニワギ博士はうどんとそばに大満足したのでそれで良し。
浜名湖だからって、うなぎとかあなごとか食べなくても別に構わない。時として、期待のハードルというやつを、思いっきり下げてみるのも(それも地面すれすれまで)、旅を楽しむコツのひとつだ。
ボート投票編につづく。