男には、どんな時も絶対に外さない、ホームグラウンドのような居酒屋というのが必要だ。
普段はいろいろと冒険しても、浮気しても、必ず帰ってこれる本妻のような店。ネットサーフィンでいうところのGoogle。ドラクエでいうところのアリアハン。中華料理でいえば餃子の王将(関西人にとっては)。ハンバーガーでいえばマクドナルド。そんなところだ。無い人はすぐに作るべきである。
環状線JR天満駅のすぐ周辺。地下鉄堺筋線ならば扇町駅。日本一長い商店街の天神橋筋商店街。その五丁目あたりに位置する天満というところは、ホームベース足りうる居酒屋・立ち飲み屋がひしめき合っている天下一の飲みどころであるが、その中でも天満酒蔵は、僕にとってのホームグラウンドであり重要なお店のひとつだ。
あまりにもホームすぎて、本来はネットなんかで世界中に紹介するのも気が引けるほど。しかし、半世紀近くの営業で、かなり知られた人気店だし、今どきネット上にも情報がいくらもあるから、紹介したところで、どうこうなったりはしないだろう。
天満酒蔵は商店街のアーケードのまっただ中で営業している。看板のところに、子供連れ厳禁の張り紙がしてあるのが素晴らしい。居酒屋に子供を連れてきてはいかん。ついでに精神的子供も来てはいかん。子供がいるけどどうしたって飲みたいという人は、チェーン系のレストラン居酒屋か、餃子の王将に行けばよいのだ。
看板に注目して欲しいのだが、ビール(大)350円。これは大瓶ビールが350円ということ。これが天満における標準価格だ。普通は酒屋の立ち飲みでも、この価格でビールを提供している店はそんなに無い。天満に良いお店を探す時は、瓶ビールの値段がひとつの指針になることは間違いがない。ちなみに、餃子の王将で大瓶ビールを注文すると、税抜きで480円である。
湯豆腐で大瓶ビールをやる。ここの湯豆腐は、ダシ入りでスープが絶品。大阪の大衆居酒屋では、湯豆腐というメニューは、こういうダシ入りのものを指す。温めた豆腐に、おでんの出汁をかけてくれる店もある。
このタイプの湯豆腐を大阪で初めて開発したとされる居酒屋も、実は同じ天神橋筋商店街の近くに存在して、そちらの湯豆腐も実に美味なのであるが、なにしろ天満酒蔵だと200円で食べられるのだからオススメだ。トッピングされたとろろ昆布が、出汁の濃さを増強していて泣かせる。
初めてこの店に連れてきた人がいる時は、必ずこれを注文することにしている。注文が通ったか通らないかのうちに、一瞬で運ばれてくる。このスピードも感動的。
湯豆腐と大瓶ビールだけ飲んで店を出たら、たった550円で済んでしまう。こういう大衆居酒屋に、テーブルチャージとか、つきだし料なんていうややこしいものは無い。
居酒屋の基本となるおでんもある。
ここのおでんは煮込みすぎて黒っぽくなったものが多い。なにしろ朝から12時間くらい営業している居酒屋である。こうした放置されたおでんというのも長時間営業の関西大衆居酒屋の醍醐味。決して洗練されたものではないし、厳密にいえば料理失格なのかもしれないけど、関西の安居酒屋の酒のツマミとしてのざっくばらんがあってわりあいほっとしてしまう。ああだこうだ言わない人は注文してみて欲しい。ほとんどのメニューがひとつ100円だし。
中でもオススメはかまぼこ。板蒲鉾を斜めに切ったものが、おでん鍋にぼてっと入っている。これは珍しいのじゃないかな。厚揚げに順ずる食べごたえがあって気に入っている。
鶏のもも焼き。
ここの焼き鳥は鉄板にアイロンみたいなものを押し付けて焼くやり方。これだと表面がつるっと焦げてパリパリで大変に美味しい。箸でほぐしてつまんでもいいし、豪快にかぶりついても構わないと思う。コショウが良い具合に効いていて、名古屋の手羽先なんかにも負けない味わいがある。ビールがすすむ。
焼き鳥を注文すると串3本で出てくるが、こちらはタレがかかって出てくるが、やはりアイロンで押し付けて焼いているので独特の香ばしさがある。
アイロンで鉄板に肉を押し付けて焼くスタイルは関西の居酒屋には多いのだけど、他の地域では、たとえば愛媛県の今治市の焼き鳥などに同じものが見られる。これはこれで、炭火焼きなどとはまた違った魅力がある。食べたことがない人は試してみて欲しい。